
『透明な海の泳ぎかた 気づく、愛する、大人になる』 (PHP文庫)
著:
谷村志穂谷村志穂のエッセイは好きだ。
自分というものをこれでもかというくらいに見つめながら強く歩いていく女性、読んでいるとそういったイメージが湧いてくる。
『透明な海の泳ぎかた』もそんな谷村志穂のエッセイの一冊である。
2000年に刊行された『Power Woman ~ 愛と自立のスケジュール』を改題、再編集したものだ。
著者は2001年に結婚しているが、その前に書かれた本書は30代後半の独身の想いが詰まっている。
「自立」、特に「女の自立」をテーマにいろいろなことを考察している。
もちろん共感できる部分もあればそうでない部分もある。
共感できない部分があるというのはある意味楽しい。
読んでいて、いままで見えていなかった景色がみえる瞬間があるのだ。
共感できないのは主に他者との接し方の部分が多かったが、あまりに自分と違いすぎてとても感心し、大げさかもしれないが感動さえもした。
共感できた部分、それは「自立」に対する考え方である。
私は何ものからも自由であることこそが自立だと思っているのだが、言語化すると著者が語っているような内容になるのかなと思いながら読んだ。
とくにchapter4の「ただ、あくまで料理に関しては、私は「出来たほうが自由だ」と思うようになりました。」という、一文へとつながるエピソードがいずれもこの上なく愛らしかった。
「ニラの卵とじ」の話で「今なにか捨てなかった?」と訊かれる場面は、この本で一番印象に残っている。
また、本書の中で著者が引用していた浅井愼平の「今日の僕は十年後の僕を作る」という言葉はいい言葉だなと思って胸に刻ませてもらった。
好きと言いつつ、久しぶりに読んだ谷村志穂のエッセイ。
しばらくマイブームとして何冊か続けて読みそうな予感である。
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谷村志穂 トラックバック:1 コメント:0
コミュニティ( 本・雑誌
| エッセイ )

『千年鬼』 (徳間文庫)
著:西條奈加
過去世を見せる3人の過去見という小鬼たち。
さまざまな時代のさまざまな人たちに、食べ物をもらったお礼に過去世を見せる。
なんだかかわいらしい小鬼たち。
各章でときおり登場する、小鬼の世話役のような黒鬼。
どうやら、恨みを吸って大きくなり人を人鬼にしてしまう鬼の芽というものを集めているようだ。
読み進めていくと、すこしずつ全体像が見えてくる。
1000年の時を経て、小鬼たちはどうなるのか。
鬼が登場するむかしむかしの話。
まさにおとぎ話である。
長いおとぎ話を読んで、胸に残るのは切なさと、一片の希望。
少し時間をおいてまた読みたいと思う一冊だった。
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●サ行の作家 トラックバック:0 コメント:0
コミュニティ( 本・雑誌
| ブックレビュー )
『さよなら妖精』 (東京創元社)
著:米澤穂信学校の帰り道、雨宿りをする外国人の少女と出会う。
ユーゴスラビアから来たというマーヤという少女とすごした日々を日記を追うという形で回想する。
マーヤや友人らと過ごす中で出てくる日常の謎がちりばめられている。
そして物語全体を通して投げかけられる大きな謎を描いたミステリ小説。
また登場人物たちの成長を描いた青春小説でもある。
古典部シリーズに通じる青臭さがありつつも、ちょっとドライなストーリー。
新装版ということで書き下ろし短編の「花冠の日」も収録されている。
マーヤの話であり、これが加わることでより物語の切なさが増す。
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米澤穂信 トラックバック:0 コメント:0
コミュニティ( 本・雑誌
| 推理小説・ミステリー )
『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』 (創元推理文庫)
著:十市社高校である失敗をしてしまい、クラスメイトから幽霊として扱われる一居士架(いちこじ かける)
家の火事で架は死んでしまったのだという。
そして時折襲ってくるノイズで周りの音も聞こえなくなる。
あるとき突然、クラスメイトの一人玖波高町(くば たかまち)に話しかけられる。
これまで誰にも見向きもされなかった架に、大きな変化が起こり始める。
最後まで、結末がどう転ぶのかハラハラしながら読んだ。
読んでいて、たしか円居挽のルヴォワールシリーズだったと思うのだが、そこで書かれていた「真相は作者の匙加減次第」という言葉を思い出した。
ロジックの見事さや、あざやかな手品のような謎と謎解きはミステリの醍醐味だが、このハラハラ感もまたミステリの醍醐味なのだと久しぶりに感じさせてくれた本である。
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●タ行の作家 トラックバック:0 コメント:0
コミュニティ( 本・雑誌
| 推理小説・ミステリー )
『百鼠』 (ちくま文庫)
著:吉田篤弘
一角獣
百鼠
到来
(目次より)
「この目次で書いてみたい」という思いから出来上がった本。
表題作の「百鼠」は、天上でくらす朗読鼠のイリヤが一人称に興味を持ってしまう話。
百鼠は地上の三人称を司っており、朗読鼠は地上で作家が三人称の小説を書くときに降りてくる声を担当している。
そして「三人称法典」というものがあり、一人称や二人称を使うことができない。
なんとも愉快な設定である。
3つの話に共通しているのは、主人公がちいさな冒険ででること、人称についての話、そして雷である。
まったく違う話の様で、根底にあるテーマは同じなのだと気づかされる。
いずれも静かな文章で、美しい世界がつくりあげられている。
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吉田篤弘 トラックバック:0 コメント:0
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