『モノレールねこ』
『モノレールねこ』 (文芸春秋)
著:加納朋子
8編の短編が収められた短編集。
肩の力を抜いて読めるものから、「生と死」あるいは「家族」について考えさせられるような内容のものまであり、どの話もすごくよかった。
ここでは個人的に特に印象に残った「パズルの中の犬」と「バルタン最後の日」を紹介しようと思う。
表題作の「モノレールねこ」に関しては、以前に
『ありがと。 あのころの宝もの十二話』で少しふれたので、今回は端折ることにする。
「パズルの中の犬」は、待つことが苦手な‘私’が夫が帰ってくるのを待つ間にするのがパズルだった。あるときフリーマーケットで新古品の「白いパズル」を買う。少しずつパズルが出来上がっていくにしたがって、パズルの中にある気配を感じ始める。それは犬だった。
自分の中に秘められた謎を追い求めていく、加納朋子の作品にみられるひとつの形である。そして、ある真実に辿り着いたとき自分自身のなかで何かがほどけるような、あるいはパズルのピースがストンとおさまる場所に収まるような感覚を、その作中の人物とともに読者も味わうことができる。この「パズルの中の犬」もそういった作品の一つである。
「バルタン最後の日」は、公園の池に住んでいた若いザリガニはあるとき人間の子どもに釣りあげられてしまう。そしてそのザリガニはその子の家庭で百円ショップで購入されたタッパーウエアの水槽のなかで飼われることとなる。この話はそのザリガニの視点でその一家の姿を描いた作品である。
人間以外の視点から描かれる世界は、それが深刻であったり、悲しいことであっても、どこか滑稽でおもしろみがある。
この作品においても例外ではなく、一家はいろいろな悩みを抱えていて、ザリガニにその悩みを打ち明けたりするのだが、それに対するザリガニのコメントや行動に思わず笑ってしまう。
(収録作品)モノレールねこ
パズルの中の犬
マイ・フーリッシュ・アンクル
シンデレラのお城
セイムタイム・ネクストイヤー
ちょうちょう
ポトスの樹
バルタン最後の日
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コミュニティ( 本・雑誌
| ブックレビュー )
『コッペリア』
『コッペリア』 (講談社文庫)
著:加納朋子
自己顕示欲が強く人形のような容姿の聖、エキセントリックな天才人形作家の如月まゆら、人とのつきあいに息苦しさを感じ人形に恋する了、登場人物たちは皆どこかしら歪みをもって生きている。
如月まゆらの作った人形に恋してしまった了。そしてその人形と瓜二つの容姿をもつアングラ劇の女優聖。
読み始めは視点が移り変わりに慣れていなければ多少戸惑うかもしれないが、読み進めていくとだんだんと全体像が見えてくる。
しかし、よくよく読んでいると妙な違和感を覚えるだろう。
その理由は書いてしまうとおもしろくないので是非読んで確かめてほしい。
この作品はアングラ劇にもすこしばかりスポットをあてている。作中にはこんな記述もある。
…… 容姿、演技力共に優れた才能あふれる人材がこの世界にはごまんといる。決して記録に残ることがなく、だからこそ、その一瞬にすべてのエネルギーを賭ける人間が、山といるのだ。
アングラ劇とは文字どおり、地下でうねるマグマだ。景気よく噴火して地表に飛び出すのはあくまでごくごく一部で、大部分は地下深いところで凄まじいまでのエネルギーをたぎらせ、うねり、対流している。
これを読んだときちょっと嬉しかった。
そして加納朋子の描くアングラ劇の青春ストーリーなんていうのも読んでみたいななんて思ってしまった。
さて、
『ななつのこ』や
『魔法飛行』の解説ではそれらの作品のことを「きれいなガラス玉に糸を通して首飾りができ上がるように」と表現されていた。そのように巧い表現はできないが、この『コッペリア』はまるで「あやとり」を見ているような感覚だった。つぎつぎと形が変わっていく糸を見ているのは不思議で、だけどその見事さに思わず見入ってしまうのである。
ここからは個人的な感想を少々書くことにする。
この作品は「新たな試み」、「新境地」などと言われている。たしかにこれまでの加納朋子作品とは少し色合いが違う物である。
しかし第3章を描いているところに加納朋子らしさを感じた。
つまり、ミステリー作品としての完成度を考えるならば、2章まででとめておいたほうがすっきりしていたと思うのだ。もちろんもっと解説はつけ加えるべきであるが。しかし3章を書くことで、全体が加納朋子らしいやわらかさあふれる作品へと変質する。これはファンとしとても嬉しかった。そして、こういう作品でさえも加納朋子らしさをだせること、読者に安心感を与えられることに改めて感心させられた。
やはり加納朋子作品は大好きである。
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コミュニティ( 本・雑誌
| 推理小説・ミステリー )
『レインレイン・ボウ』
『レインレイン・ボウ』 (集英社)
著:加納朋子
七色(なないろ)の虹の一色一色がタイトルにつけられた、7つの物語。
その7つの物語は、高校時代のソフトボール部のチームメイト一人一人に焦点をあてていく。
ある時、チームメイトの一人であった牧知寿子が死んだ。
その原因は何だったのか。そして知寿子ともっとも仲のよかった長瀬里穂はなぜ、通夜や告別式には来なかったのか。
このように書くと、殺人?犯人捜し?と思うかもしれないが、そこはメインではなく、高校時代の仲間との再会や仕事での新たな出会いから、登場する女性たちの成長する姿が魅力的に、そしてさわやかに描かれている。
みんなに信頼され慕われていた、かつてのチームのキャプテン片桐陶子。
彼女は
『月曜日の水玉模様』の主人公でもある。
『月曜日の水玉模様』を読んだ人には、本作での彼女の何気ない言動が理解しやすいので、先に読むことをおすすめする。
例えば、第1話の「サマー・オレンジ・ピール」での渡辺美久との会話の中で
「陶子さん、赤ちゃん欲しいの?」と聞かれた後の陶子セリフなどは、なるほどなと思うはずだ。
また、先に読んでいることで第7話での登場人物についても親しみが持てるだろう。
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(関連書籍)
『月曜日の水玉模様』著:加納朋子 (集英社文庫)
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『虹の家のアリス』
『虹の家のアリス』 (文春文庫)
著:加納朋子
サラリーマンをやめ探偵になった仁木順平とその優秀な助手安梨沙が事件を解決していく、
『螺旋階段のアリス』の続編。
前作同様に、数々の事件が『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』を上手に絡めてあるところには舌を巻く。
今作では前編に渡って「家族、家庭」というものが根底にある。
親子、兄弟、そして仁木自身の息子や娘、安梨沙とその家族やハウスキーパー。
また、安梨沙の身の回りのことが描かれることによって、謎の多かった安梨沙のことも少しずつわかってくる。そして、安梨沙の成長する姿も少なからず描かれている。
探偵というと多くの物語で描かれているのは、密室殺人や不可能犯罪などの難解な事件を鮮やかに解き明かすというのが一つの姿ではあるが、この作品で取り扱われるのは、ほとんどがささやかな事件ばかり。しかし、もちろんどの事件も依頼人にとってはとても重大な事件なのだ。
そんな事件を取り扱う仁木の姿をみて、探偵という職は、本来、個人ではどうにもならない、だけど警察ではとりあってくれないような問題に手を差し伸べる、一種の隙間産業なのかもしれない。
(過去の関連レビュー) →
『螺旋階段のアリス』 (TBさせてもらったblog) →
[BOOK REVIEW]『虹の家のアリス』加納朋子 (tontonの終わりなき旅)
(関連書籍)
『螺旋階段のアリス』著:加納朋子 (文春文庫)
『不思議の国のアリス・オリジナル』著:ルイス・キャロル 訳:高橋宏 (書籍情報社)
‘アリス’ファンにおすすめの一冊。
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コミュニティ( 本・雑誌
| 推理小説・ミステリー )
『螺旋階段のアリス』
『螺旋階段のアリス』 (文春文庫)
著:加納朋子
サラリーマンをやめ探偵になった仁木順平。その仁木の前に突然現われたのが謎の少女、安梨沙。二人の共通点は『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』を好きなこと。
起こる事件は、これらの本の登場人物をうまく絡めて描かれる。そしてもちろん加納朋子の書く推理小説、人が死んだりはしない。
仁木の所に舞い込んでくる事件は、警察に話しても取り合ってもくれないような他人からしたら些細な、だけど依頼人にとってはとても重大な事件なのである。
ところで、この本のテーマの一つは「夫婦」であろう。「螺旋階段のアリス」の鍵の隠し場所や金庫の中身から「アリスのいない部屋」の仁木とその妻にいたるまで、そこかしこに「夫婦」というものが描かれている。
そしてこれまた加納朋子の持ち味で、どんな場面でも和やかでさらりとした雰囲気を漂わせている。
(関連書籍)
『虹の家のアリス』著:加納朋子 (文春文庫)
(‘アリス’の物語を読んでみたい人に‥)
『不思議の国のアリス』著:ルイス・キャロル 訳:脇明子 (岩波少年文庫)
『鏡の国のアリス』著:ルイス・キャロル 訳:脇明子 (岩波少年文庫)
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コミュニティ( 本・雑誌
| 推理小説・ミステリー )
『ささら さや』
『ささら さや』 (幻冬舎文庫)
著:加納朋子
夫が交通事故に遭う、そんなシーンから物語ははじまる。
残された妻のサヤと赤ん坊のユウ坊、二人にいくつもの困難が襲いかかる。
しかし、幽霊(トランジット・パッセンジャー)となった夫がそっと助けの手を差し伸べ、サヤは、そしてユウ坊は困難をひとつずつ乗り越えていく。
佐佐良の街で、騒がしい3人のおばあちゃんや子持ちの母のエリカなどと友だちになっていき、次第ににぎやかになっていくサヤの周辺。
そう、サヤにはどこか人を引きつける魅力があるのだ。そして実はとても強い女性なのだと思う。
読者は、夫とともにそんなサヤを見守り、そして謎を解きをしていく。
加納朋子の作品は優しい作品が多いが、その中でも、この本は特に優しさにあふれた作品である。
夫の交通事故のシーンでさえふんわりと、そしてコミカルに描かれている。
幽霊というちょっと不思議な設定はあるものの、やはり日常の謎がメインの加納作品、是非とも堪能していただきたい。
(関連書籍)
『てるてるあした』 加納朋子 (幻冬舎)
- コミックス -『ささら さや』 1巻『ささら さや』 2巻著:加納朋子 絵:碧也ぴんく (バーズコミックス)
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『ななつのこものがたり』
『ななつのこものがたり』 - 絵本 -
著:加納朋子 絵:菊池健 (東京創元社)
おかあさんが寝る前の男の子にお話をしてあげる。それはおかあさんが昔読んだ「ななつのこ」(『ななつのこ』の作中作)という本のお話。
「ななつのこ」は、‘はやて’が村で起こった出来事を‘あやめさん’に話して、‘あやめさん’はその出来事の不思議をといてしまうお話だ。
すいか畑の絵や竹やぶに彼岸花が咲いている絵、表紙も含め菊池健さんのやわらかでやさしい絵がとても素敵である。
作中では7つのお話を一晩にひとつずつしているのだが、自分が読むときにも寝る前にひとつずつ読んでいくといいと思う。お話の最後でおかあさんが男の子に「おやすみ」という言葉をかけるのが読んでいる自分にも言ってくれているような気がする。そして読み終えたあとの穏やかな気持ちのまま眠りに入れるように思う。
蛇足になるが、『ななつのこ』や『魔法飛行』などを読んだ人が気になるのはやはり、おかあさんが誰かということだろう。だけど、それも作中にヒントが隠されているので、探してみると楽しい。
(過去の関連レビュー)→
『ななつのこ』→
『魔法飛行』
(関連書籍)
『ななつのこ』 加納朋子 (創元推理文庫)
『魔法飛行』 加納朋子 (創元推理文庫)
『スペース』 加納朋子 (創元クライム・クラブ)
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コミュニティ( 本・雑誌
| 絵本 )
『沙羅は和子の名を呼ぶ』
『沙羅は和子の名を呼ぶ』 (集英社文庫)
著:加納朋子
10編の話が収められている加納朋子の短編集。それぞれの話のタイトルは下に列挙しておく。
どの話も好きだし、印象に残ってる話は?と聞かれても困ってしまうのだが、いくつか挙げて書いてみる。
「天使の都」は、読んでいる最中はとっても不思議な話で、どうなるんだろうとずっと思っていたが、読み終わってみるとすっきりとした印象で、心があたたまる話であった。
「橘の宿」は、どこかで聞いたような、どこでも聞いたことのないようなどこか懐かしい昔話という感覚が心地よかった。
「オレンジの半分」の「半分に切ったオレンジに、一番よく似ているものなあんだ?」というなぞなぞも面白かった。そして最後にはなるほどと思わせられた。ちなみに「オレンジの半分」は
『掌の中の小鳥』と少しだけつながりがある話だ。
表題の作品「沙羅は和子の名を呼ぶ」については先入観なしで楽しんでほしいので、あえてコメントをせずにおく。
この本に収められている作品は全体的にこれ以前の加納朋子の作品とはすこし風合いの違うものだ。もちろん推理小説なので、謎とその謎解きは用意されているのだが、安心しきって読んでいる裏切られてしまう。
これ以上書くと、読んだ時の面白みが減ってしまうのでこのへんでとめておくが、加納朋子ファンの人もミステリファンの人も一読してみる価値はある本だと思う。
あと、本島幸久の解説の「呪文」についての話は、加納朋子ファンとしてはなかなか興味深かった。
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「黒いベールの貴婦人」
「エンジェル・ムーン」
「フリージング・サマー」
「天使の都」
「海を見に行く日」
「橘の宿」
「花盗人」
「商店街の夜」
「オレンジの半分」
「沙羅は和子の名を呼ぶ」
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(関連書籍)『掌の中の小鳥』 加納朋子 (集英社)
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