もみじの本屋   須賀敦子

『こうちゃん』

こうちゃん『こうちゃん』 - 絵本 -
文:須賀敦子 絵:酒井駒子 (川出書房新社)
あなたは こうちゃんに あったことが ありますか。
こうちゃんって どこの子かって。そんなこと だれひとりとして しりません。 (本文より)


どこからきたのか、どこへいくのか、そんなことは誰にもわからない、こうちゃん自身にもわからない、それがこうちゃん。
でも読んでいると、こうちゃんの存在をたしかに感じるのだ。そしてそして不思議な懐かしかささえ感じる。

本のなかの‘わたし’と本を読んでいる‘わたし’とそしてこうちゃん、この三者は平行に引かれた3本の線のように、一定の間隔を保っている。

ふつうは物語の登場人物に感情移入すればするほど、その物語が愛おしく、自分に寄り添ってくる。しかし、この本ではその一定の間隔が、逆に物語を愛おしくさせ、‘わたし’を愛おしくさせ、こうちゃんの存在を愛おしくさせる。そして、ことばのひとつひとつがとても心地よく胸に染入ってくる。

酒井駒子の絵は、須賀敦子の異国情緒を感じさせるだけど日本らしさのある文章に素晴らしくマッチしている。特に赤色の使い方がうまいなあと思わされた。


読み終わったとき、胸を締め付けられるような思いに駆られた。それはまるで大切な人との別れのように、切なくて、かなしくて、やるせいないような感覚だった。
どうしてだろう。
これまでに自分が失ってきたものに対する思いなのだろうか。

(いいなと思った記事)
●  こうちゃん (まっしろな気持ち)
 …… 素敵な思い出と妄想にうっとりさせられる。



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以下は備忘録として、特に印象的だったところを簡単に記しておく。
読んだときの印象を損ねてしまうかもしれないので、本に興味をもって、これから読むという人は気を付けて。

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コミュニティ( 本・雑誌 | 絵本

『コルシア書店の仲間たち』

コルシア書店の仲間たち『コルシア書店の仲間たち』 (文春文庫)
著:須賀敦子

まさにタイトルの通り、コルシア・デイ・セルヴィ書店の出入りしていた人たちの話である。
須賀敦子がイタリアへいっていたころのミラノにあった、ある理想の実現を夢見る若者たちの集った共同体、それがコルシア・デイ・セルヴィ書店である。

須賀敦子の視点から当時の状況が切々と伝わってくる。そして、そこに登場する須賀敦子の友だちや夫も生き生きと描かれる。

『ヴェネツィアの宿』のレビューでも書いたが、やはり須賀敦子のうつくしい文章に引き込まれてしまう。
そして読み終わった時には1960年代のミラノを実際に見てきたような気さえしてしまう。


(関連書籍)
ヴェネツィアの宿『ヴェネツィアの宿』
著:須賀敦子 (文春文庫)




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コミュニティ( 本・雑誌 | エッセイ

『ヴェネツィアの宿』

ヴェネツィアの宿『ヴェネツィアの宿』 (文春文庫)
著:須賀敦子

「ヴェネツィアの宿」というタイトルからイタリアの話がメインなのではと思うかもしれないが、そんなことはない。
留学先のイタリアやフランスでの話はもちろん、日本での生活を美しい文章と構成で書き上げている。

戦争の経験、戦後の修道院と寄宿舎と語学学校の混在する空間で生活、パリへの留学、日本が高度経済成長にあるなかイタリアで過ごした日々。
さらには、とても自己中心的で愛人までいる父親、古風で純日本的な親戚。
これらのエピソードがこの本にはつまっている。
また、これらの経験があるからこそ、彼女は、自身の感性を独特なものへと磨き上げていったのであろう。

この時代に生きた人はみなそうなのかもしれないが、波瀾万丈という形容がぴったりな人生を送った須賀敦子。彼女の体験した様々な事柄を見事な描写で描き出したエッセイである。


(関連書籍)
コルシア書店の仲間たち『コルシア書店の仲間たち』
著:須賀敦子 (文春文庫)




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