もみじの本屋   川上弘美

『龍宮』

ryuuguu『龍宮』 (文春文庫)
著:川上弘美

人と、人にあらざる聖なる異類との交情を、説話的な要素と日常のリアリティを融合させて描いた玉手箱のごとき8つの幻想譚。(裏表紙より)

現実と非現実のあいだを揺らぎ、そしてそれらが絶妙に溶けあった、曖昧で現実的な世界が描写される。読んでいると、そんな奇妙で怪しい世界がだんだんと心地よくなってくる。

そんな世界をつくりあげている要素の一つは、読者に時間や空間をつかませない描写ではないだろうか。むかしむかしの話なのか、現代なのか、それとも未来なのか。はたまたまったく別の次元の話なのか。

たとえば表題作の「龍宮」では、時折意味のわからぬことを口走り、教祖と崇められたり漁村で獣のような生活をしたりしていた14歳のような容姿の曾祖母イト。一方で曾孫である私はイトのために、冷蔵庫のチルド室にあった豚のロースがでカツレツをつくる。このように昔と今を行ったり来たりするなかで、読者は曖昧な世界へと引きずり込まれていく。

このイトのような人間にあらざるものの存在は不気味さ、神聖さも感じさせる。そして、それが現実的な描写のなかで独特な浮遊感もたせているのである。

本書全体の雰囲気としては、独特の奇妙な話にまるで夢の中にいるような間隔の中、寂しさや孤独といったものがにじみ出ているようである。

うまく紹介できないのだが本書を読むということは、タイトルに掛けると、竜宮城に行って蛸やヒラメの舞を見るようなものなのかもしれない。そして、その怪しい世界を堪能し、読み終えると現実へと戻ってこれる。その世界の心地よさに惹かれ、あまり深入りすると浦島太郎のようにもとの自分の知る現実にもどってこれなくなってしまうのだろうか。

(収録作品)
北斎
龍宮
狐塚
荒神
鼹鼠

島崎
海馬


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『椰子・椰子』

椰子・椰子『椰子・椰子』 (新潮文庫)
著:川上弘美 絵:山口マオ

川上弘美の描くヘンテコな話。半分は夢の内容なのだそうだ。
春夏秋冬と日記形式で進んでいき、それぞれの季節に短編が添えられている。
そして文庫本では秋に「ぺたぺたさん」も収録されている。

すごく変な世界なのに、なぜかじんわりと心に入ってくる。
会社のコピー機の裏に4歳くらいの女の子が住み着いたり、町内会副会長をしている殿様が登場したり、二百十日に飛ばされてきたものを物色しに行ったりと本当に独特の世界観である。

登場人物もまた変わっていて、小学6年生くらいの身長のもぐら、ジャンとルイというしゃべる鳥、山本アユミミなんていうかわいらしい名前の女性、しりとりのように名前がつながっていて故事をつかうお隣さんなどなど多彩だ。

そんな話に山口マオの独特の絵や作品の写真が実に合っている。
ここまでしっくりくる絵や作品はないだろうとまで思える。
たくさんの愉快な作品がつまっているので、きっと山口マオの絵が好きな人も楽しめるだろう。

荒唐無稽、でたらめな物語を楽しめるそんな一冊である。


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『此処彼処』

此処彼処『此処彼処』 (日本経済新聞社)
著:川上弘美

日本経済新聞に連載されていたエッセイ集。
さまざまな場所について書かれているが、紀行文や紹介文というわけではなく、12ヶ月に分けて、さまざまな場所についての思い出が書かれている。

はじめの数ヶ月はどこか切なくてもの悲しい雰囲気があるなと感じたが、後半は少し陽気な印象をうけた。
全体的にはどこか夢の中のようにおぼろげで、でも透きとおったガラスのように鮮明で、「ああ、やっぱり川上弘美だな」と思った。

基本的には関東のある場所にまつわる話が多いが、ときどき関西や北海道など他のところの話もでてくるし、幼少時代を過ごしたアメリカや新婚旅行でいったマダガスカルの話もでてくる。

気になったのは9月の最後に書かれている「堅田」について。
琵琶湖というちょっと身近な場所で、しかも松尾芭蕉の逸話のこともあり、また中秋の名月のちかいこの時期に読んだせいではあるが、実際に十六夜の月がでているころにいってみたいと思った。

最後まで読み、あとがきを読んで、そしてその最後の部分に書かれている「武蔵野にて」という文字を見た時、その5文字がこのエッセイ本のすべてを集約しているような気がした。

はじめて読む人でも十分に楽しめる内容であるが、幼少時代の記憶や、自身の書いた作品(とくに『神様』)について触れられているところもあり、川上弘美ファンの人にはたまらない一冊であろう。


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(関連書籍)
神様『神様』
著:川上弘美 (中公文庫)




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