もみじの本屋   ほしおさなえ

『ヘビイチゴ・サナトリウム』

ヘビイチゴ・サナトリウム『ヘビイチゴ・サナトリウム』 (中公文庫)
著:ほしおさなえ

プロローグと「幽霊」「鍵のかかった部屋」「アルファベット・ビスケット」「遺書」の4章、そしてエピローグという構成であるが、4章の印象としては起承結転といった感じである。
結、転というのは、結でとりあえず事件はおさまりを見せて、そのあとに・・転がどのように転ぶかは読んで確認してもらいたい。

物語は中高一貫教育の女子校が舞台である。そこの屋上から江崎ハルナという生徒が転落死する。江崎ハルナは美術部に所属する高校3年生である。そして、美術部では以前にも同じ3年生の部長だった杉村梨花子が転落死している。どちらも自殺あるいは事故死の可能性が高いということである。この事件に関連はあるのか。

江崎ハルナの死後、学校でハルナの幽霊を見たという噂があちこちから出てくる。そして一人の国語教師宮坂がその幽霊に取りつかれたようになる。そして新たに一人の人物が転落死する。

美術部の中学3年生の西山海生と新木双葉は、その新たな転落死に違和感や疑問を感じ、事件について調べ始める。
他方、海生と双葉の担任で、国語教師の宮坂と同じ大学出身の数学教師高柳も二人とは違った視点から転落死に疑問をもつ。
これらの転落死ははたして事故なのかそれとも・・。

推理小説好きでたくさん読んでいる人などは、容易に先が読めてしまう部分も多少あるが、それでも推理小説としてはかなり質の高い作品であると思う。またミステリの要素だけでなくサスペンス的要素もある。というのもいくつかの視点から物語が進んでいくのだが、その中に犯人のものらしき視点も含まれているからである。

視点の移り変わりについていけないと話がこんがらがってしまうかもしれないが、丁寧に書いてあるのでよく読むとそう振り回されることもない。
ただ、美術部の生徒の描かれ方がやや印象に残りにくいようにも思うので、その点を注意して読むとより物語についていきやすいだろう。

あとがきで笠井潔が「自分と他人の境界のくずれ」をテーマにしているといったことを書いている。たしかにそういった部分は随所に見られるし、主軸的なテーマであると思う。
しかし、それ以上に印象的だったのは少女たちのやりとりである。海生と双葉の会話、海生とハルナの会話、ハルナとある少女の会話。何気ないものから意味ありげなものまで、そこには尊敬、喜び、悲しみ、嫉妬、憎しみ、嘆き、怒り、そして自分でもなんといっていいのか分からないような感情、さまざまなものが渦巻いている。この作品ではそのあたりの描写がうまいと思わされた。

誕生から完成まで約10年というこの作品は、読んでいて古さも感じさせられるが新しさも感じさせられるなんとも不思議な一冊である。


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(関連書籍)
鍵のかかった部屋『鍵のかかった部屋』
著:ポール・オースター (白水社)
作中でモチーフとして使われた本。





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『モドキ』

モドキ『モドキ』 (角川書店)
著:ほしおさなえ

舞台は画一化された風景が広がる楓ヶ丘ニュータウン。
去年女子学生の失踪事件や謎の火災がおこり一時騒がれた町である。

専門学校にも行かなくなりスーパーのバイトでつないでいるミナミカワカホ、夫との不和を感じながらミニチュア女性の画像を扱うウェブサイトにはまっていくカメイさん、草に恐怖を感じる櫟原研究室の桐林、基本的にはこの3つの視点で物語が進んでいく。

カホとカメイさんとは同じスーパーで働いている同僚である。
そして同じくスーパーで働いているマツナガも物語のキーマンの一人。
カホはあるときマツナガからネットで手に入れたという小型の人間そっくりな生物を見せられる。
そのときからカホはその小さな人間そっくりのものの世界へと巻き込まれていく。

カメイさんは昔、藤谷あみという名前でテレビなどにでていた。
最大のヒットは「科学レスキュー911」というテレビ番組で小さくなってしまう少女の役を演じた時である。
カメイさんがAIWというウェブサイトで見たミニチュア女性の画像は、昔の自分、つまり藤谷あみとそっくりであった。
そんなことからAIWに興味を持ちメールを送る。そして、何度かメールでやりとりをしているうちにサイト上でコラボレーションをすることになる。

桐林を含めた櫟原研のメンバーは南米の山中で採取した矮小化した植物を発見、サンプルの研究を進めていくうちにレトロウイルスによるものではないかという説を立てる。

読み進めていくと徐々につながりが見えてくるが、それと同時にだんだんと狂気の世界が広がっていく。
最後、どう終結するのかは自分の目でたしかめてみてほしい。

少し感想のようなものを書いてみると
町が登場人物がすべてが無表情なつくりもののように、描かれていて、うまく「モドキ」の世界を演出している思った。
それは著者の文章のうまさであるが、読み終えたあと最初の数ページを読み返したときにそれを実感した。
実ははじめから著者の力によって「モドキ」の世界へと引き込まれているのである。
SF、サイコ、ミステリー、サスペンス、そういった要素が好きな人には是非読んでみてほしい作品である。


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