『透明な旅路と』
『透明な旅路と』 (講談社)
著:あさのあつこ
「 月が出ていた
満月に近い、丸い月だ。しかし、満月というには、どこかがわずかに欠けているようで、その欠落部分のわずかさだけ、歪みを感じる。そんな月だった。」(冒頭より)読み終えて、物語全体をこの冒頭部分に重ね合わせてしまった。
完全なようで、わずかな欠落部分、歪みを感じるそんな話。そして、不完全であるからこそ引き込まれてしまうのだ。
吉行明敬は女性を絞殺し逃げていた。いや、正確には逃げていたわけではなく、1日だけの安穏をもとめていたのだ。
いつ警察につかまってもおかしくない状況、近くでパトカーのサイレンの音がきこえる。
地元近くの山道を車で走っていると、新道と旧道の分かれ道にさしかかる。警察による交通規制を恐れ、旧道を選ぶ。
旧道を少し行くと古びたトンネルに行き当たった。別段躊躇することなくトンネルをくぐる。さまざまな思いをめぐらせながらトンネルをくぐる。
その先には少年と女の子が待っていた。女の子を家に送っているという少年。女の子の家は奥地にある尾谷村。
ここから吉行、白兎(はくと)という少年、和子という女の子の奇妙な旅路がはじまる。
おもしろいのはなんといっても吉行と白兎のやりとりである。
例えば、
「前から一度、言おうと思っていたんだがな、おまえ屁理屈が多すぎる。いちいち、言い返してくるな」
「吉行さんこそ、ツッコミが多すぎますよ。いちいち、突っかかってくるんだから。やりにくくてたまらない」こんな場面に思わず笑ってしまう。
表紙の彼岸花のおぼろげで儚げなところがこの物語を象徴しているようだ。
タイトルにも「透明」とついているように、透きとおった物語である。
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