もみじの本屋   伊坂幸太郎

『魔王』

魔王『魔王』 (講談社文庫)
著:伊坂幸太郎

表題作の「魔王」とその5年後を描いた「呼吸」の2作品の収められている。

「魔王」では会社員の安藤という男が主人公で、両親を亡くして弟の潤也と暮らしている。
彼は「考えろ考えろ」と自分に言い聞かせる考察好きで、本人曰く「好き、というよりも、生きることは考察することだ、と大袈裟に言えばそう信じてもいる。」ということである。

日本はいま、上向きかけた景気が再び下がってしまい、溜め息と諦観に溢れかえっていた。
そんな日本に、断固たる姿勢で日本を引っ張っていこうとする未来党という小さな党の党首、犬養が注目されつつあった。
安藤はその犬養がムッソリーニと似ていると感じ、いずれはムッソリーニのような独裁政治が行われるようになることを危惧していた。

そんなある時、自分が念じれば、その相手に念じた言葉を言わせるという、自身の能力に気付く。
その能力と考えることを武器に、安藤は日本の大きな流れに一人立ち向かっていく。


「呼吸」の主人公は安藤の弟の潤也である。「魔王」のときに交際していた詩織と結婚し、仙台で住んでいた。
潤也はテレビやネットから離れ、猛禽類の定点調査の仕事をしている。
そして潤也もまた、かならずジャンケンに勝つという不思議な能力が自身にあることに気付くのだが。



読んでいて、作品の端々で読者に「考えろ」と訴えている気がした。
登場人物の友人や同僚との会話は、フィクションといいつつも現代社会と密接に関係しているテーマばかりである。

伊坂幸太郎にしては、ふわっとした、悪く言えば歯切れが悪い終わり方をしている。
しかし、この「呼吸」からさらに50年後を舞台にした『モダンタイムス』という作品がある。

もちろん主役は安藤兄弟ではないが、本作の登場人物が何人か脇役として登場し、接点がいろいろとある。
「呼吸」のあとの潤也に関しても触れられているので、歯切れが悪いと感じた方はそちらも読んでみるといいかもしれない。

個人的には、「呼吸」の終わり方も未来がいろいろと想像できて好きである。




(関連書籍)
モダンタイムスモダンタイムス『モダンタイムス 上・下』
著:伊坂幸太郎 (講談社文庫)





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コミュニティ( 本・雑誌 | ブックレビュー

『ラッシュライフ』

ラッシュライフ『ラッシュライフ』 (新潮文庫)
著:伊坂幸太郎

のぞみの車内で会話をする志奈子と戸田、泥棒を家業とする黒澤、宗教団体の教主である高橋に心酔する河原崎、不倫相手とその相手の妻の殺害を企てている京子、リストラされ再就職もうまくいかない豊田、いくつかの物語が併走しながら描写されていく。

物語でたびたび「エッシャー展」の話がされるが、その騙し絵のような物語の展開にはさすが伊坂幸太郎と思わずにはいられない。

物語の中で、

「『つなぐ』という絵がとても良かった」……(中略)……「あれはリレーを意味しているんだね。人生はきっと誰かにバトンを渡すためにあるんだ。今日の私の一日が、別の人の次の一日に繋がる」

「私の好きだった絵にそういうものがあってね。『つなぐ』という題名だった。それを観て思ったんだ。一生のうち一日だけが自分の担当で、その日は自分が主役になる。そうして翌日には、別の人間が主役を務める。そうだったら愉快だな、と」(本文より)

といった台詞が出てくる。
人と人が関わりあい、そしてつながりながら日々を生きていく、これが本書のテーマの一つなのであろう。

物語全体として重みがあまり感じられなかったのが少し残念である。たしかに巧いと思わせる構成だし、セリフも読んでいて楽しい、ただ何故か物語として印象に残りにくい。
だが、その軽やかさがこの作品の良さの一つだと思うので、重厚な古典絵画をみるのではなく、挑戦的な現代アートを観る感覚で読むといいのかもしれない。


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(関連書籍)
オーデュボンの祈り『オーデュボンの祈り』
著:伊坂幸太郎 (新潮文庫)

額屋のバイトがするという喋るカカシの話。

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コミュニティ( 本・雑誌 | 推理小説・ミステリー

『オーデュボンの祈り』

オーデュボンの祈り『オーデュボンの祈り』 (新潮文庫)
著:伊坂幸太郎

伊藤は目を覚ますと見知らぬ部屋で一人寝ていた。
ノックされるドア。
ドアを開けると見知らぬ男が立っていた。
その男は日比野といい、轟という人物に頼まれ島を案内しに来たのだという。

主人公である伊藤がいたのは仙台の牡鹿半島をずっと南にある荻島という島だった。その島は外との交流はなく外界とは隔絶されているという。
また出会うのは、嘘しか言わない園山という元画家や地面に耳をつけて遊んでいる若葉という少女、島のルールで人殺しの桜という男、未来のことを知っており喋ることのできる優午というカカシなどとても変な住人ばかり。

さらに島には
「此処には大事なものが、はじめから、消えている。だから誰もがからっぽだ」
「島の外から来た奴が、欠けているものを置いていく」
という古い言い伝えがある。
多くの人は信じていないが、日比野は信じている。

そんな住人と会ったり、変な言い伝えを聞かされたりという一日がとりあえず過ぎ、次の日目を覚ますと島の状況が一転していた。
島の指針であった優午が殺されるのだ。

わからないことだらけである。
なぜ未来を知っているはずの優午は自分の死を阻止できなかったのか?
犯人はいったい何なのか?
言い伝えは本当なのか?
本当ならば島にないものとはいったい何なのか?


率直な感想であるが、とてもおもしろかった。
設定がおもしろく、また場面転換が多いので飽きずにサクサクと読み進めることができた。

この本に関しては「内容がわかりにくい」だとか「村上春樹を彷彿させる」といったレビューを読んでいたので覚悟して読んだのだが、個人的にはまったくそんなことは感じなかった。
むしろ、世界観がはっきりとしていて、そのなかで出てくる謎をその世界観にそって謎解きするという本格的な推理小説であった。

この小説をファンタジーと位置づけている人が多いようだが、どちらかというとSFの要素が強いように感じた。SFの世界設定として、喋るカカシや荻島などの解説が甘いとは思うが、現実世界には存在しない法則を仮定した上に成り立っていると思う。

まあ、ファンタジーでもSFでもよいのだが、非現実的な設定が読者の幅を狭めているのは事実のようである。また場面転換の多さも、人によっては読みにくいかもしれない。
しかし、こんな変わった設定のミステリ小説は稀有であり、また多少の詰めの甘さは感じるものの、とても完成度の高い作品であると思うので、ぜひ一読してみてほしい。



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『アヒルと鴨のコインロッカー』

アヒルと鴨のコインロッカー『アヒルと鴨のコインロッカー』 (創元推理文庫)
著:伊坂幸太郎

現在と2年前の話が交互に書かれており、「現在」は椎名という大学の新入生の目線で、「2年前」はペットショップでバイトをしている琴美という女性の目線で書かれている。

「現在」では、椎名は引っ越しそうそう隣人の河崎という男に広辞苑を奪うために「一緒に本屋を襲わないか」と誘われる。そして、その二日後には本屋を襲うことになるのである。
「2年前」では、琴美の住む市内でペット殺しが多発しており、琴美はその犯人かもしれない3人組と遭遇してしまう。

読み進めていくと、「現在」と「2年前」が徐々につながっていき、さまざまな謎が徐々に解き明かされていく。

椎名が本屋を襲いにいくことや、琴美がドルジというブータンからの留学生を初対面でアパートに連れていくところなど多少アリティーにかけるなと思う部分もあるが、その強引さもフィクションならではのよさなのかもしれない。

動物虐待のことについて話しているところのペットや野良猫の殺し方が無惨で、想像するだけでもぞっとする。しかし、一番はじめに以下のようなページがあるところはおもしろいと思う。

No animal was harmed in the making of this film.
(この映画の製作において、動物に危害は加えられていません)

            映画のエンドクレジットによく見られる但し書き


ひとつ大きな仕掛けがあり、まったく気づいていなかったので驚かされた。
そして、その仕掛けに笹生陽子の『楽園のつくりかた』を思い起こした。

全体的に軽快な文章で、また飽きさせずどんどんと読み進めることができる。
第25回吉川英治文学新人賞をとった作品であるが、確かに著者の才能を感じさせる一冊である。


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『死神の精度』

ryuuguu『死神の精度』 (文春文庫)
著:伊坂幸太郎

死神が主人公という一風変わったミステリ。
千葉と名乗る主人公は調査部に所属しており、仕事は指示された人間を1週間調査して、その人間の死の可否を決めるというもの。

6つの短編からなっており、それぞれに千葉が調査する対象が登場する。そして千葉は毎回その相手に適した姿をしている。

どの話も飽きずに読めるのだが、それは物語のテンポがよいのではなく(もちろん悪くもないが)、登場人物が生き生きと描かれていることや、死神である千葉が普通の人間とは違った受け答えをすることによって調査対象者やほかの登場人物との会話がおもしろいことによると思う。

また短編連作としてのまとめかたも、さすがは伊坂幸太郎と思わせる巧いものであった。
『アヒルと鴨のコインロッカー』や『重力ピエロ』などでももちろんいいのだが、個人的には初めて伊坂幸太郎を読むのであればこの本をおすすめしたい。


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