もみじの本屋 2006年10月

『十字路のあるところ』

十字路のあるところ『十字路のあるところ』 (朝日新聞社)
著:吉田篤弘 写真:坂本真典

郷愁を誘う6編の物語。読んでいると、延々と繰り返される十字路、壁に横たわる自転車、影の落ちるアスファルト、植物の絡みつく古い壁、そんな情景が浮かんでくる。
そして、まるで迷路にでも迷いこんでしまったような感覚に陥ってしまう。

すこし物語の雰囲気を味わってもらうため引用させてもらおう。

 その幻影から目を逸らすためなのか、それとも、より微細に幻影を立ち上がらせるためなのか、私は雨にもめげず、むしろ雨に導かれるように意味もなく十字路を行き来していた。不思議にも、それまで見過ごしていたものが、いちいち目の端に引っ掛かり、何度も立ち止まってなかなか前に進めない。(「雨を聴いた家」より)



 そこにもまた影が幾重にも折りかさなっている。
  もちろん、この世はどこに言っても影がつきまとうが、ひとつひとつの影に、柔らかさ、鋭さ、甘味、渋味、優しさ、怖さ、その他ありとあらゆるものが孕まれ、西陽の変転で甘さに支配されたり、かと思うと吸い込まれるような哀しげな何ものかに統一された。(「水晶萬年筆」より)



物語の後に続くのは「十字路の探偵」。そこでは、モノクロームの写真によって、物語を語り終えた静かな町をうつしだす。
そして、たしかにその物語はそこにあったのだと語りかけてくれる。


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『ありがと。 あのころの宝もの十二話』

ありがと。『ありがと。 あのころの宝もの十二話』 (メディアファクトリー)
編:ダ・ヴィンチ編集部
著:狗飼恭子、加納朋子、三浦しをん(他)

大人の女性に向けた本だろうか。
不倫だとか離婚だとか意外と重たいテーマの作品も多かった。
もちろん個性的な作家が集まっているので、内容は12話すべてまったく違ったものであるし、短編とはいえどの作品も30ページほどあるので、読み応えもある。

加納朋子の作品が収録されているということ気になっていた。そして狗飼恭子、三浦しをんの作品も一度読んでみたかったので購入。読んでみると、「賢者のオークション」、「窓の下には」、「光の毛布」、「届いた絵本」などにも興味をひかれた。
あと、この本の12話目に輪廻転生をあつかう「プリビアス・ライフ」をもってきているところになんとなく編集のうまさを感じる。

読みたかった「モノレールねこ」であるが、おもしろかった。
小学生のサトルの家に不細工なデブのねこがやってきた。そのねこを嫌がっている母にはだまって、サトルはときどき餌をやっていた。
あるとき、そのデブねこは赤い首輪をつけていた。サトルはそこに「このねこのなまえはなんですか?」という手紙をはさむ。そして、となりの校区の小学校に通うタカキとの文通がはじまった。
加納朋子の本を何冊か読んでるものとして実は最後の展開が読めてしまったのだけど、でもだからこそ加納朋子らしさのにじみ出ている一話だと思う。

もう一つ「届いた絵本」についても書かせてもらおう。
高校教師の母、イラストレーターの父、その二人の子どもである志織。両親が別居することでうまくいっている家庭。母と暮らしながらも、その現実を冷静に見つめる志織は実は両親以上に大人なのかもしれない。
そんな志織が大切にしていた、宝物だった絵本は家を出て行く前に父がくれたもの。しかし、その本は母に燃やされてしまった。
タイトルからもわかるとおり、そんな志織のもとに一冊の絵本が届くのだが‥。
絵本の内容に対しての小さいころの志織の思い、新たに届いた絵本に向けての志織の思いに、思わずほろりとさせられる。

12人の中に気になる作家さんがいる、いろんな作家さんの作品が読みたい、新しい作家さんを発掘したい、そんな人にはおすすめの一冊である。

(収録作品)
「町が雪白に覆われたなら」 狗飼恭子
「モノレールねこ」 加納朋子
「賢者のオークション」 久美沙織
「窓の下には」 近藤史恵
「ルージュ」 島村洋子
「シンメトリーライフ」 中上紀
「光の毛布」 中山可穂
「アメリカを連れて」 藤野千夜
「愛は、ダイヤモンドじゃない。」 前川麻子
「骨片」 三浦しをん
「届いた絵本」 光原百合
「プリビアス・ライフ」 横森理香


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(関連書籍)
君へ。『君へ。 つたえたい気持ち三十七話』
編:ダ・ヴィンチ編集部 (メディアファクトリー)
著:北方謙三、田口ランディ、石田衣良、川上弘美(他)

秘密。『秘密。 私と私のあいだの十二話』
編:ダ・ヴィンチ編集部 (メディアファクトリー)
著:森絵都、小川洋子、北村薫、伊坂幸太郎(他)


嘘つき。『嘘つき。 やさしい嘘十話』
編:ダ・ヴィンチ編集部 (メディアファクトリー)
著:西加奈子、豊島ミホ、井上荒野(他)
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●共著/その他 トラックバック:0 コメント:0
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『アジアンタムブルー』

アジアンタムブルー『アジアンタムブルー』 (角川文庫)
著:大崎善生

「青春文学の名作『パイロットフィッシュ』につづく、慟哭の恋愛小説。」(裏表紙より)

そう、この作品は『パイロットフィッシュ』へと続く小説である。そして慟哭の恋愛小説、純愛小説である。
アダルトの編集部に勤め始めて十数年、33歳の山崎隆二が思い返す、葉子とすごした日々。

現在の山崎から、ヒューズやヒロミの思い出、中学時代の原罪、高校時代の先輩との体験、そして葉子と出会ってからの数年間が振り返られる。
そして現在の山崎はというと、デパートの屋上でただ毎日を過ごしている。そして中川宏美という女性と出会うことになる。

この作品の魅力はやはり、続木葉子という女性の存在が大きい。
山崎と葉子がお互いを慈しみ合い、愛し合って過ごすニースでの数日間は、本当に美しく描かれている。
また、意外と大きな存在なのがSMの女王ユーカである。
彼女もまたこの作品をもり立てる魅力的な女性の一人だ。

ちなみにアジアンタムブルーとは作中の説明によると「アジアンタムの憂鬱」、水が不足すると葉っぱがちりちりになって丸まり、それがみるみるうちに全体に広がってしまう現象のこと。一度丸まりはじめたアジアンタムは最終的にはもとに戻らないのだそうだ。
このアジアンタムブルーが何を表しているかということは、読んでみれば一目瞭然である。そしてそれを思うとこのタイトルだけでもすこし切なくなってしまう。

(いいなと思った記事)
● アジアンタムブルー (海の色、空の色。)
 ……「優しさ」も作品のテーマの一つだったのだと再認識。
● アジアンタムブルー (読書感想文 と ブツブツバナシ)
 ……「それにしても、主人公って・・」っていう最後の一文に激しく共感(笑
● ◎◎「アジアンタムブルー」 大崎善生 角川書店 1500円 2002/9 (「本のことども」by聖月)
 ……「パラレルワールドストリー」というところに納得。


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以下はどうしても気になった部分を少しだけ述べようと思う。
批判的なものなので、読みたい人だけどうぞ。

【Read More】

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『透明な旅路と』

透明な旅路と『透明な旅路と』 (講談社)
著:あさのあつこ

「 月が出ていた
  満月に近い、丸い月だ。しかし、満月というには、どこかがわずかに欠けているようで、その欠落部分のわずかさだけ、歪みを感じる。そんな月だった。」(冒頭より)


読み終えて、物語全体をこの冒頭部分に重ね合わせてしまった。
完全なようで、わずかな欠落部分、歪みを感じるそんな話。そして、不完全であるからこそ引き込まれてしまうのだ。

吉行明敬は女性を絞殺し逃げていた。いや、正確には逃げていたわけではなく、1日だけの安穏をもとめていたのだ。
いつ警察につかまってもおかしくない状況、近くでパトカーのサイレンの音がきこえる。

地元近くの山道を車で走っていると、新道と旧道の分かれ道にさしかかる。警察による交通規制を恐れ、旧道を選ぶ。
旧道を少し行くと古びたトンネルに行き当たった。別段躊躇することなくトンネルをくぐる。さまざまな思いをめぐらせながらトンネルをくぐる。
その先には少年と女の子が待っていた。女の子を家に送っているという少年。女の子の家は奥地にある尾谷村。
ここから吉行、白兎(はくと)という少年、和子という女の子の奇妙な旅路がはじまる。

おもしろいのはなんといっても吉行と白兎のやりとりである。
例えば、
「前から一度、言おうと思っていたんだがな、おまえ屁理屈が多すぎる。いちいち、言い返してくるな」
「吉行さんこそ、ツッコミが多すぎますよ。いちいち、突っかかってくるんだから。やりにくくてたまらない」

こんな場面に思わず笑ってしまう。

表紙の彼岸花のおぼろげで儚げなところがこの物語を象徴しているようだ。
タイトルにも「透明」とついているように、透きとおった物語である。


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  あさのあつこ トラックバック:0 コメント:2
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『All Small Things』

All Small Things『All Small Things』 (講談社)
著:角田光代

読んでいるとほんわかあったかくなってくる、春の陽気のような本。

長谷川カヤノからつながっていく「恋人と過ごしたどんな時間が心に残っている?」という質問。そこから描かれる12人の恋の話。

好きな女の子とのデートのための下調べに、歩き回った東京の町。毎日いっていたドーナツ屋さんの男の子の後ろを歩いていたときのこと。父親について歩いて道に迷ったときのこと。
印象に残っているのはみんな、そんな些細な全然デートらしくないデートのことばかり。

この本はただ単純な恋愛の話を書いたものではなくて、そこからちいさな幸福について書かれたものだ。
だからドロドロしたデートの話とか、こっちまではずかしくなるようなキザなデートの話なんてでてこない。
もしでてきても、それはやっぱりその人が一番印象に残っているデート、幸せな記憶であって不快感なんてない。

実際のアンケートから100人の一番印象に残ったデートも収録。

「まっしろな気持ち」でましろさんが書かれていた記事も素敵だったので、この本に興味のある方は是非どうぞ。

(TBさせてもらった記事)
→ All Small Things (まっしろな気持ち)


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