もみじの本屋 2007年12月

『屋久島ジュウソウ』

屋久島ジュウソウ『屋久島ジュウソウ』 (集英社)
著:森絵都

森絵都の紀行文。大きく「屋久島ジュウソウ」と「slight sight-seeing」に分かれている。

「屋久島ジュウソウ」は著者とデザイナーの池田さんと3人の編集者にガイド細田さんを加えた6人が屋久島をめぐり、登山する旅日記。
基本的に、淡々と出来事や食べたものなどが綴られており、読み手はその出来事を想像しながら著者とともに登山をしたり森のにおいをかいだりするのだ。

「slight sight-seeing」では14の短い旅の話が書かれており、こちらは著者の想いや旅の楽しみ、嘆き、怒りなどがメインに描かれている。
旅で感じるなんとも言えない感情、雰囲気などを味わうことができた。
「アフリカの南のほう」での船の上から流れる風景の描写と著者やその友人が感じていたことなどは、なんだか懐かしい感覚さえした。
しかし、それは自分が似た体験をしていたということに基づくので、読む人によって感想はまたまったく違ったものになるだろう。

紀行文は、読んでいるとその場所に行ってみたくなる。文章に書かれていたものに実際に触れてみたくなる。においをかいで見たくなる。食べ物を味わってみたくなる。旅好きの人が紀行文を読むとみんなそんなことを思うのではないだろうか。

ところで、この本で一番笑ったのは、あとがきの「本当に懲りない人たちだな」という箇所。思わず声をあげて笑ってしまった。


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コミュニティ( 本・雑誌 | エッセイ

『モザイクの馬』

モザイクの馬『モザイクの馬』 - 絵本 -
文:小薗江圭子 絵:和田誠 (講談社)

「まえがき」と17の話からなっている。
17の話はみんな‘お話をする馬’から聞いた話である。

どの話もユーモアがあり、終わり方も愉快で思わずクスリと笑ってしまう。
例えば「うたう木馬」では、動かすとキーキー変な音がする木馬が最後には揺れるたびにコーラスが聞こえてくる素敵な木馬になる。

また表題作の「モザイクの馬」では何世紀もそこにいたモザイクの馬が退屈をしていたところ、最後には違う景色が見られるようになる。

見開きの2ページに1つの話と絵がかかれているので、どのページを開いても楽しむことができる。
寝る前に適当に開いたページの話を読んで、ほのぼのとした気持で眠りに落ちるなんていうのもいいだろう。

(収録作品)
まえがき
シロツメクサの原っぱ
もとは名馬
うたう木馬
ユニコーン
泥棒と馬
ちいさな馬
ホース・ラディッシュ
ラクダ
鼻の差
スイート
回転木馬
辻馬車
モザイクの馬
縞馬
王様の馬たち
ペガサスの目玉焼き
馬蹄投げ



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コミュニティ( 本・雑誌 | 絵本

『嫁洗い池』

嫁洗い池『嫁洗い池』 (創元推理文庫)
著:芦原すなお

作家の‘ぼく’とその奥さんの住む郊外の家に、おいしそうな食材と事件をもってやってくる河田警部。奥さんがその食材を美味しそうに料理し、事件も見事に解決する。『ミミズクとオリーブ』に続くシリーズ第2弾。

今回は大根の雪花、イリコ、塩アンの丸餅、アラメ、ヒャッカ、豆腐の兄弟煮、関東炊きなどが登場。今回もとても美味しそうである。
今作でも‘ぼく’の名助手ぶりま見ものである。また‘ぼく’と河田警部の漫才的で愉快なやりとりもさらにグレードアップしたように感じる。

この作品で個人的に気に入っているのは動物である。毎回登場するミミズクもかわいらしいし、前作での犬や今作の「まだらの猫」で登場する猫もいいキャラクターだと思う。猫の方はあのどこかふてぶてしい態度がすごく好きだ。

前作同様に和みや素朴さを感じさせてくれる、おちついた推理小説。


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(関連書籍)
ミミズクとオリーブ『ミミズクとオリーブ』
著:芦原すなお (創元推理文庫)

→ レビュー

わが身世にふる、じじわかし『わが身世にふる、じじわかし』
著:芦原すなお (創元推理文庫)
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コミュニティ( 本・雑誌 | 推理小説・ミステリー

『龍宮』

ryuuguu『龍宮』 (文春文庫)
著:川上弘美

人と、人にあらざる聖なる異類との交情を、説話的な要素と日常のリアリティを融合させて描いた玉手箱のごとき8つの幻想譚。(裏表紙より)

現実と非現実のあいだを揺らぎ、そしてそれらが絶妙に溶けあった、曖昧で現実的な世界が描写される。読んでいると、そんな奇妙で怪しい世界がだんだんと心地よくなってくる。

そんな世界をつくりあげている要素の一つは、読者に時間や空間をつかませない描写ではないだろうか。むかしむかしの話なのか、現代なのか、それとも未来なのか。はたまたまったく別の次元の話なのか。

たとえば表題作の「龍宮」では、時折意味のわからぬことを口走り、教祖と崇められたり漁村で獣のような生活をしたりしていた14歳のような容姿の曾祖母イト。一方で曾孫である私はイトのために、冷蔵庫のチルド室にあった豚のロースがでカツレツをつくる。このように昔と今を行ったり来たりするなかで、読者は曖昧な世界へと引きずり込まれていく。

このイトのような人間にあらざるものの存在は不気味さ、神聖さも感じさせる。そして、それが現実的な描写のなかで独特な浮遊感もたせているのである。

本書全体の雰囲気としては、独特の奇妙な話にまるで夢の中にいるような間隔の中、寂しさや孤独といったものがにじみ出ているようである。

うまく紹介できないのだが本書を読むということは、タイトルに掛けると、竜宮城に行って蛸やヒラメの舞を見るようなものなのかもしれない。そして、その怪しい世界を堪能し、読み終えると現実へと戻ってこれる。その世界の心地よさに惹かれ、あまり深入りすると浦島太郎のようにもとの自分の知る現実にもどってこれなくなってしまうのだろうか。

(収録作品)
北斎
龍宮
狐塚
荒神
鼹鼠

島崎
海馬


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コミュニティ( 本・雑誌 | ブックレビュー

『しずり雪』

sizuriyuki『しずり雪』 (小学館)
著:安住洋子

時代小説で、市井ものの「しずり雪」、「寒月冴える」、「上り龍」と、武家ものの「城沼の風」の4つの話が収録されている。「城沼の風」はさらに「虎落笛」(もがりぶえ)と「狭霧」に話がわかれている。

蒔絵師、医者、大工から武家までさまざまな人たちのひたむきに生きる姿が描かれており、読者は登場人物たちとともに多少の不安を感じたりしながらも、そのひたむきな姿をあたたかく見守ることができる。
一編一編も、また全体としても綺麗にまとまった作品で丁寧に描かれているという印象を受けた。雰囲気もおちつきしっとりとしたもので、安心して読むことができる。

表題作の「しずり雪」では、老中水野忠邦の「奢侈禁止令」によって暮らしに困る蒔絵師とその妻がでてくる。そして蒔絵師のもとに幼馴染のおとこが禁制の仕事をもちこんでくる。

「寒月冴える」では、養生所に担ぎ込まれてきた男が死ぬ間際に言った最期の願いをかなえてやろうとする、一人の若い先生の姿が描かれている。

「昇り龍」では、気のいい酒好きの男とその娘がでてくる。娘は父親の借金のために茶屋勤めをして、そこで見初められる。父を心配しながらも夫は父を嫌っているためになかなか会いにもいけない。そんな中、その父がひどい怪我をする。

「城沼の風」は、ある男が殺され、その男の息子、裕真は父の死に疑問をもつ。しかし、より大きな力によって裕真はどうすることもできない。

どの話にも登場する友五郎親分の人柄がいい。人柄がよく、ちょっとおせっかいだけどきっちりと仕事をこなす。この友五郎親分によって話の味わいがより深いものとなっている。



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