もみじの本屋 2011年01月

『さくらえび』

さくらえび『さくらえび』 (新潮文庫)
著:さくらももこ

さくらももこが編集長にして取材も文章も絵もさくらももこが書いた雑誌「富士山」のエッセイが収録されている一冊。

父ヒロシがからんでくる話はどれも秀逸。だが、さくらももこのエッセイとしては物足りなさを感じる。
おそらく雑誌では写真や絵が満載でとてもおもしろかったのであろうが、すこし挿絵はあるものの基本的に文字ばかりなのでそのおもしろさが伝わりにくく、歯切れの悪いものも多かった。また内輪ネタも多かったように思う。

個人的に印象的だった話は「あの日の奈良」、「ヒロシの挑戦 しまなみ街道」、「オーストラリアに行く」である。
「あの日の奈良」は読んでいてすこしほろりとくるものがあった。最後にオチがあって笑わせてくれるのかなと期待したのだが、それがなかったのが少し残念。
「ヒロシの挑戦 しまなみ街道」は読んでいて、讃岐うどんとウニ丼が食べたくなった。そして自転車の旅もしてみたくなった。
「オーストラリアに行く」は読んでいて、ヒロシの言動にかなり笑わせてもらった。

さくらももこのエッセイのなかではそれほどおすすめの一冊というわけではないが、「あの日の奈良」などはさくらももこファンなら知っておきたいエピソードのひとつであろうし、買って損というわけではないと思う。
ただし、雑誌「富士山」が手にはいるならそちらをおすすめするが……。


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(関連書籍)
またたび『またたび』
著:さくらももこ (新潮文庫)

雑誌「富士山」に収録されていた取材ものの紀行文がメインにまとめられたエッセイ。

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コミュニティ( 本・雑誌 | エッセイ

『ラッシュライフ』

ラッシュライフ『ラッシュライフ』 (新潮文庫)
著:伊坂幸太郎

のぞみの車内で会話をする志奈子と戸田、泥棒を家業とする黒澤、宗教団体の教主である高橋に心酔する河原崎、不倫相手とその相手の妻の殺害を企てている京子、リストラされ再就職もうまくいかない豊田、いくつかの物語が併走しながら描写されていく。

物語でたびたび「エッシャー展」の話がされるが、その騙し絵のような物語の展開にはさすが伊坂幸太郎と思わずにはいられない。

物語の中で、

「『つなぐ』という絵がとても良かった」……(中略)……「あれはリレーを意味しているんだね。人生はきっと誰かにバトンを渡すためにあるんだ。今日の私の一日が、別の人の次の一日に繋がる」

「私の好きだった絵にそういうものがあってね。『つなぐ』という題名だった。それを観て思ったんだ。一生のうち一日だけが自分の担当で、その日は自分が主役になる。そうして翌日には、別の人間が主役を務める。そうだったら愉快だな、と」(本文より)

といった台詞が出てくる。
人と人が関わりあい、そしてつながりながら日々を生きていく、これが本書のテーマの一つなのであろう。

物語全体として重みがあまり感じられなかったのが少し残念である。たしかに巧いと思わせる構成だし、セリフも読んでいて楽しい、ただ何故か物語として印象に残りにくい。
だが、その軽やかさがこの作品の良さの一つだと思うので、重厚な古典絵画をみるのではなく、挑戦的な現代アートを観る感覚で読むといいのかもしれない。


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(関連書籍)
オーデュボンの祈り『オーデュボンの祈り』
著:伊坂幸太郎 (新潮文庫)

額屋のバイトがするという喋るカカシの話。

→ レビュー


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コミュニティ( 本・雑誌 | 推理小説・ミステリー

『クドリャフカの順番』

クドリャフカの順番『クドリャフカの順番』 (角川文庫)
著:米澤穂信

いわゆる「古典部シリーズ」の3作目。古典部はある問題を抱えて文化祭を迎える。
手違いで文集を作りすぎてしまったのだ。

話は文化祭前日からはじまり、古典部の部員それぞれが文化祭への思いを胸に前夜を過ごす。
部長の千反田えるは問題を乗り越えられるよう神に祈り、福部里志は文化祭そのものを楽しみにしつつも自分たちがその問題に対してどう動くのかが楽しみでなかなか寝付けず、折木奉太郎はネットをみたり姉とのやりとりをしながらも悲観も楽観もせずただ眠りにつく。そして神山高校文化祭に思い入れのある摩耶花は、自分の確認ミスで問題が起こったと腹をたて、また文化祭中は漫研が忙しく問題を抱えた古典部を手伝えないことに腹を立て、睡眠薬を口にする。
そして、文化祭が始まる。古典部は問題をうまく解決できるのか。

さらに古典部がそんな問題を抱えるなか、文化祭では盗難事件が起こる。
この事件はどう決着するのか。

前作までから引き続き古典部員たちの心情の変化にも注目したい。


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(関連書籍)
氷菓『氷菓』
著:米澤穂信 (角川文庫)

→ レビュー


愚者のエンドロール『愚者のエンドロール』
著:米澤穂信 (角川文庫)

→ レビュー


遠まわりする雛『遠まわりする雛』
著:米澤穂信 (角川文庫)

ふたりの距離の概算『ふたりの距離の概算』
著:米澤穂信 (角川書店)
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コミュニティ( 本・雑誌 | 推理小説・ミステリー

『十五歳の夏』

十五歳の夏『十五歳の夏』 (文芸社)
著:方村美博

帯に「“恋に癒される”なんて、知らなかった……」と書いてあり、「十五歳の夏」というタイトルの割に実は大人のストーリーとドキドキしながら(という年でもないが)本を開いたら、十五歳の瑞々しくて甘酸っぱい世界が広がっていた。

ママとパパが離婚問題でもめている間、おばあちゃんの家で過ごすことになった伊摘。
そんな伊摘は田舎でケンという少年と出会う。

離婚というテーマも扱っているが、全体としては重くもなく暗くもなく、少女の視点でとても軽やかにいっそ清々しく描かれている。
離婚以上に少女の田舎での体験(成長?)がメインテーマだと思うのだが、その点では欲を言えばもう少し少女の成長が徐々に、だがはっきりとみられるとよかったと思う。

百十数ページで字も大きくとても読みやすい。おそらくたいていの人は1時間もあれば読み終わる程度の文章量ではないだろうか。もちろん起承転結はきちんとしており、とてもテンポ良く読み進めることができる。人によっては物足りなさを感じるかもしれないが、短編という感覚だろうか。

児童文学を読んだような感覚であったが、タイトルが「十五歳の…」とあるので、著者も中学生くらいの年代の人をターゲットに考えているのかもしれない。たしかに内容だけでなく読みやすさも含めその年代(小学生高学年から中学生)に特に勧めたい作品である。

処女作ということで、たしかに書き込みが甘いなと思う点もあったが、これからの活躍に期待したい。


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