もみじの本屋 『家守綺譚』

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『家守綺譚』

家守綺譚『家守綺譚』 (新潮文庫)
著:梨木香歩

「それは ついこのあいだ、
 ほんの百年すこし前の物語。」(帯より)


本書はこの本の主人公、綿貫征四郎の著したものである。
征四郎はある時、亡くなった親友である高堂の実家の守をしてくれと高堂の父親から頼まれ、そこに住んでいる。
その家の庭にはさまざまな植物が咲き、湖の疎水からとった池もある。
そして床の間には水辺の足の風景のなか白サギが魚にねらいを付けている図の掛け軸がかけられている。

さて、タイトルからもわかるとおりこの話は綺譚である。
ある風の激しい日、掛け軸の向こうからボートが一艘近づいてくる。
乗っていたのは親友の高堂であった。
そして、サルスベリが征四郎に懸想しているというのである。
そのあとも高堂はもちろん、草花に鳥獣、河童に小鬼とさまざまなモノが登場する。

雨の描写が多かったせいか、物語全体にしっとりとした印象をうけた。
また滋賀県と京都府の境のあたりが舞台となっているので、知っている地名などがでてくると嬉しく、とても身近に感じられた。

読む上で一つ注意したほうがいいのは、「解説」は先に読まないほうがいいということ。
最後の部分についての言及があるので話の着地点が先にわかってしまい、はじめて読んだ時の面白みが少しだけ減ってしまうだろうから。

さてここからは感想を少々書きたいと思う。
解説では『春になったら莓を摘みに』の話をだし、「理解はできないが受け入れる」といったことについての関連について触れられていた。
なので、そこの部分については解説にまかせるとして、他の部分について。

『西の魔女が死んだ』『からくりからくさ』などを読んでいても思ったのだが、多くの梨木香歩の作品にはさり気なく時代の進歩との齟齬について触れられている。
本書に関しても、ペンとインキを使っているにもかかわらず「筆が進まない」という表現をしたことから、次のような記述があった。

「文明の進歩は、瞬時、と見まごうほど迅速に起きるが、実際我々の精神は深いところでそれに付いていっておらぬのではないか。鬼の子や鳶を見て安んずる心性は、未だ私の精神がその領域で遊んでいる証拠であろう。鬼の子や鳶を見て不安になったとき、漸く私の精神も時代の進歩と齟齬を起こさないでいられるようになるのかもしれぬ。」

ほかにもところどころ、時代の進歩に対するささやかな記述がある。
それらは文明の進歩への警告というわけではないが、さり気なくそれへの懸念を感じさせられる。
環境問題が騒がれる昨今、単純に地球温暖化がどうだ、ごみ問題がどうだというよりも(もちろんそれも大事だが)、著者のこのような記述ほうが環境問題の根幹に触れているのではないかと思われる。

また「烏蘞苺記」(やぶがらしのき)では、

「……無數の問ひに對して、今なら私は確實に云ふことができるだらう。外に求めることはない、私の中に、少なくともその答への用意がすでになる、と。」

という記述がある。ここを読んだときには梨木作品でよく語られる「内なる自分との対話」ということが浮かんだ。つまり『春になったら莓を摘みに』で書かれていた例えば「二つ以上の相反する方向性を保つと言うことは・・・」などの著者の思考である。それは『裏庭』などにも顕著に見られる。

梨木香歩の作品はすべてに通じて、著者自身の一貫したテーマが認められ、そこに共感できる者にとってはどれもかけがえのない作品になりうるだろう。
そして、そのテーマというのがほとんどの人たちの抱える問題であるため、広く支持されているのであると思う。

------------------------------
以前、「絵本工房・JONKO」のpochi-junさんからコメントでお薦めをいただいていたので早く読みたかったのだがなかなか読む機会がなく、文庫化されてようやく読むことができた。
pochi-junさんご紹介ありがとうございました。

(TBさせてもらった記事)
→  家守綺譚(文庫版) [梨木香歩] (+ ChiekoaLibrary +)
→ 梨木香歩【家守綺譚】 (ぱんどら日記)
→ 「家守綺譚」梨木香歩 (日だまりで読書)
→ 家守綺譚 梨木香歩 (ふくらはぎの誘惑曲線PARTⅡ)


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(関連書籍)
村田エフェンディ滞土録『村田エフェンディ滞土録』
著:梨木香歩 (角川書店)
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コミュニティ( 本・雑誌 | ブックレビュー

コメント

>hoy.さん

>雨の情景が多いけど、それがしっとりと潤って少しも嫌な雰囲気がしないのは、やはり雨は「恵み」なのでしょうね、この作品世界では。

雨や水の情景がいいですよね。
しっとりした雰囲気の中でなんともいえずおちつきます。

> 私も以前関西在住の頃は、よく琵琶湖の周りを行ったりきたりしてたので、すぐに「おや?」と思っちゃいました。

そうなんですよね。あの辺りの地理を少ししっていると「おや?」って思うんですよね。
以前京都に住んでいたこともあるし、いまでも京都や琵琶湖周辺にはよく行くので、読んでいてなんだか嬉しくなってしまいました。
梨木さんは滋賀県に在住だと聞いたことがあります。なのであのあたりのことには詳しいのでしょうね。

2006 10/30 大葉 もみじ 編集


やっと読み終わりました。余韻が深く長いです。
雨の情景が多いけど、それがしっとりと潤って少しも嫌な雰囲気がしないのは、やはり雨は「恵み」なのでしょうね、この作品世界では。
私も以前関西在住の頃は、よく琵琶湖の周りを行ったりきたりしてたので、すぐに「おや?」と思っちゃいました。

2006 10/30 hoy. 編集


>そらさん
心地よく過ごしただけ、わかります!
ほんとに心地のよい作品でした。
読んでいて、静かな情景が思い浮かんできたり、夢うつつでまどろみたい感じですよね♪

いろいろ考えてるというか、ある1行を読んだ時にぱっと何かを連想してしまうだけなんですよ。以前に読んだ本の一文が浮かんできたりとか。
その部分を覚えておいて、無粋だとは思いつつもレビューを書くためにあとであれこれ考えちゃうんですね。

2006 10/20 大葉 もみじ 編集


大葉 もみじさん、こんにちはっ♪
この作品、やっと読めました\(^o^)/
大葉 もみじさんはこの作品からたくさんのことを考えていらっしゃるのね。
私はただただ心地よく過ごしただけだったので、ちょっと赤面(^^;)

2006 10/20 そら 編集


>ディックさん
梨木香歩さんの本からはいつも何かしら感じるものがあります。

新たに道路を通したりというのは近隣の人たちの安全のためという理由もあるし、必要な工事というものはありますよね。
それに日本の場合は人が多いので、どうしても植物や動物の生きる場所を脅かしてしまうことになります。
でもやっぱり動植物のことも考えてしまい、悲しくなってしまう自分もいます。
エゴといえばエゴなのですが、そういうことを考えなくなってしまってはほんとに何もかもが終わってしまいそうで恐いです。
「相反する方向性」ということ、ゆっくりと咀嚼して考えていきたいですね。

2006 10/11 大葉 もみじ 編集


大葉 もみじ さんの感想を読んで、梨木香歩さんの本をさらにたくさん読んでいきたくなりました。
9年前に父が地主から借りていた土地を等価交換して自動車が入ることのできる道路を通し、増築して、ぼくと家族はそこへ住んでいますが、たくさんの木が犠牲になり、損なわれた自然はもどりません。
とはいえ、忙しい仕事をこなして生きていくためには、ある程度の開発はやむを得ない面もあるのです。
こうした相反する方向性を自分の心の中で馴染ませるのは、つらいものがあります。

2006 10/11 ディック 編集


>chiekoaさん
こちらこそコメントありがとうございます!
『家守綺譚』、ほんとにすばらしい本だと思います。
思わず、記事がこれまでにないほど長くなってしまいました。
『春になったら莓を摘みに』もとてもよい本なので是非是非読んでみてください♪

2006 10/05 大葉 もみじ 編集


こんにちは。コメントありがとうございました!この本はなんと言っていいのかわからないくらいに、いろんな意味ですばらしい本だと思います。私はエッセイは読んだことがなかったのですが、もみじさんの記事を読んでいたら「読まねば!」と思いました。これから読んでみますね!

2006 10/05 chiekoa 編集


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