もみじの本屋 『十字路のあるところ』

『十字路のあるところ』

十字路のあるところ『十字路のあるところ』 (朝日新聞社)
著:吉田篤弘 写真:坂本真典

郷愁を誘う6編の物語。読んでいると、延々と繰り返される十字路、壁に横たわる自転車、影の落ちるアスファルト、植物の絡みつく古い壁、そんな情景が浮かんでくる。
そして、まるで迷路にでも迷いこんでしまったような感覚に陥ってしまう。

すこし物語の雰囲気を味わってもらうため引用させてもらおう。

 その幻影から目を逸らすためなのか、それとも、より微細に幻影を立ち上がらせるためなのか、私は雨にもめげず、むしろ雨に導かれるように意味もなく十字路を行き来していた。不思議にも、それまで見過ごしていたものが、いちいち目の端に引っ掛かり、何度も立ち止まってなかなか前に進めない。(「雨を聴いた家」より)



 そこにもまた影が幾重にも折りかさなっている。
  もちろん、この世はどこに言っても影がつきまとうが、ひとつひとつの影に、柔らかさ、鋭さ、甘味、渋味、優しさ、怖さ、その他ありとあらゆるものが孕まれ、西陽の変転で甘さに支配されたり、かと思うと吸い込まれるような哀しげな何ものかに統一された。(「水晶萬年筆」より)



物語の後に続くのは「十字路の探偵」。そこでは、モノクロームの写真によって、物語を語り終えた静かな町をうつしだす。
そして、たしかにその物語はそこにあったのだと語りかけてくれる。


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