もみじの本屋 『村田エフェンディ滞土録』

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『村田エフェンディ滞土録』

村田エフェンディ滞土録『村田エフェンディ滞土録』 (角川文庫)
著:梨木香歩

まずタイトルが独特であるので簡単に説明をしたいと思う。
「村田」は日本人の名前で、「エフェンディ」とは学問を修めた人物に対する敬称で、日本語でいうところの「先生/学士様」といったところである。「滞土録」は読んで字のごとく、土耳古(トルコ)の滞在記録ということであろう。
つまり、この本は1900年ごろ、土耳古の首都スタンブールに留学していた村田という日本人の記録である。

内容はまさにそのまま、村田の土耳古での滞在記であるのだが、重要となってくるのが下宿先の仲間たちである。英国人の女主人ディクソン夫人、そこの使用人(身分的には奴隷)のムハンマド、村田と同じく下宿している独逸(ドイツ)人のオットーと希臘(ギリシャ)人のディミィトリス。彼らと議論をしたり、神様のケンカに巻き込まれたりしながら、打ち解け合い、助け合い、心を通わせながら暮らしていく。

ほかにも、土耳古に来ている、あるいはやってくる日本人や、現地の土耳古人との交流、村田やオットー、ディミィトリスそれぞれの関わる考古学の仕事に関する内容も書かれている。

村田は『家守綺譚』の中でときどき話に登場するトルコに行っている村田と同一人物である。
最後には『家守綺譚』に登場した人物たちも登場し、村田に話している内容の微妙な含みが『家守綺譚』を読んでいると察せられにやりとさせられる。

梨木香歩の作品に共通して根底に流れているテーマが、この本にもしっかりと織り込まれていて、考えさせられる一冊であった。

この本の中で、ディミィトリスが「私は人間だ。およそ人間に関わることで、私に無縁なことは一つもない。」というセリフを言う。これは古代ローマの劇作家テレンティウスの作品にでてくる言葉なのだそうだが、この言葉がこの作品ではとても象徴的である。
象徴的といえば、下宿先の鸚鵡もまたそうである。この鸚鵡のセリフやそれを言うタイミング。さらには最後の場面での鸚鵡の存在など、物語のとても大きなウエイトをしめている。

さらにいうと、鸚鵡の他にもさまざまな動物がでてきて、タイトルにも多く動物が登場する。たとえば驢馬や犬、ニワトリ、馬、キツネなどなど。その動物たち(本物の動物で内場合もあるが)もまた象徴的である。『家守綺譚』のタイトルにすべて植物の名称があてられていたが、(著者の真意はわからないが)多少それを意識しているのかもしれないなと思った。

根底に流れているテーマということで言えば、こういう記述もあった。
国(文明・文化・社会)が

繰り返すのだ。勃興、成長、成熟、爛熟、腐敗、解体。これは、どうしようもないのだろうか。


これは『裏庭』の内容を思い出させる。他にも、この本の中では土耳古の話だけに宗教的な内容も多く登場するが、そのあたりは『春になったら莓を摘みに』の中の

私たちはイスラームの人たちの内界を本当には知らない。分かってあげられない。しかし分かっていないことは分かっている。


なんていう部分を思い出させる。

(人種、文化、歴史、思想などの異なる)多様な人たちが登場するということは、自分自身を意識し、また他人との違いを意識し、その違いを受け入れた上で関係を築き上げていく。理解しようとする姿や、異なる物を受け入れようとする姿勢が見られ、そこにはなぜかやさしさというものが伴う。梨木香歩の作品では、そのあたりの記述がとても繊細になされており好きである。

1900年頃の土耳古ということで、常に国同士や宗教の争いが見え隠れしているのだが、後半にはその部分が顕著に物語にからんでくる。
そして村田を含め下宿の仲間たちもその争いに翻弄されていく。

読んでいて浮かんでくるイメージがモノクロームでもの悲しく、また寂しい雰囲気だったのは挿絵の影響ばかりではないだろう。

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これまで文庫化された梨木香歩の本は新潮文庫ばかりだったが、今回は角川文庫ということで、本屋で購入される方はご注意を。

(いいなと思った記事))
●  村田エフェンディ滞土録 / 梨木香歩 (+ ChiekoaLibrary +)
 ……「おぉ、君たちも息災か!なにより!」に思わず笑ってしまった♪



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(関連書籍)
家守綺譚『家守綺譚』
著:梨木香歩 (新潮文庫)

アジヤデ『アジヤデ』
著:ピエール・ロティ (新書館)
ディクソン夫人とディミィトリスとのやりとりがあった一冊。
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村田エフェンディ滞土録

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2009年07月31日 ◆小耳書房◆

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