もみじの本屋 『グランド・フィナーレ』

『グランド・フィナーレ』

グランド・フィナーレ『グランド・フィナーレ』 (講談社)
著:阿部和重

友人の薦めで、はじめて阿部和重の作品を読んだ。
作風も何も知らない状態で読み始めて、まったくの手探り状態。

この本には「グランド・フィナーレ」、「馬小屋の乙女」、「新宿ヨドバシカメラ」、「20世紀」の4つの作品が収められている。
ここでは主に表題作である「グランド・フィナーレ」について書きたいと思う。

物語は、一人の男を主人公に彼の目線で話は進んでいく。
読み進めていくと徐々にこの男自身の性格やおかれている状況などが見えてくる。
男はある理由で離婚し、現在は故郷に住んでいる。どうにかして娘を取りもどせないかと考えて一時的に上京し、そこに東京に住んでいた時の知り合い、YやI、元妻と自分との共通の友人である伊尻隼人などと会う。
さらに、そのあとには故郷に戻った後の男の暮らしぶりも描かれている。

起こっていることや行動などの話の展開は淡々と描かれているが、逆に男の考え・心情・思考には比喩などが多く用いられている。これは男の性格や論理的な試行によるものだが、読者にとってはなかなかとっつきにくい。しかし、そこがまた面白いところでもある。

たとえば冒頭は「可愛らしいピンク色のウサギと青色の子グマが手を繋いで横に並び、眼前に立ちはだかっている。」という文章から始まるのだが、かなり戸惑ってしまう。
そして読んでいると遊園地などにいる着ぐるみのウサギとクマが襲ってくるというような、どこかの映像で出てきそうなイメージが浮かんでくる。
このように男の内的思考は、読者の想像力をかき立てる表現や言いまわしが多く含まれている。
1冊読んだだけではわからないが、著者はこういった書き方が得意なのではと思った。

また話の区切り区切りの印象の変化がおもしろい。
ひと段落読み終わるごとにうける雰囲気や印象が変化していく。そして最後の段落ではじんわりと希望を抱けるような終わり方となっていて後味は悪くない。
物語の結末のその後がどうなったかということは読者の想像にゆだねられるのであるが。

しかし、どうしても中途半端な終わり方だなという印象はうけてしまった。
もしかしたら関連作品を読んだり、ほかのいろいろな作品を読めば印象が変わるかもしれないが、初読の素直な感想としてはそう感じてしまった。

「馬小屋の乙女」、「新宿ヨドバシカメラ」、「20世紀」は「グランド・フィナーレ」とはまた趣の違う話である。
「新宿ヨドバシカメラ」に関して言えば、森山大道の写真とのコラボレーション企画だったそうなのだが、その写真がついていなかったのが残念である。

最後に、自分がちょっとおもしろいと思った部分を、備忘録として引用しておく。

こちらが勝手に仮構した各々の人物像ばかりに支店の焦点を合わせて、適度にコミュニケートした気になっていただけなのだろうか。しかし誰もが多かれ少なかれ、そんなふうにしか他人とふれあえぬものではないか ……


ホームビデオを鑑賞する家族たちはそのとき、二つの映像を見ていることになる。画面に映し出された映像と、それを目にすることで呼び起される記憶の映像を。これを別の角度から捉えると次のように言い換えられる。映像とは、それ自体としてはただの風景と大差なく、映し出される出来事の意味は見る者の記憶に依存する。映画の面白さが人によって異なるのは、こうした事情のせいだ。




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(関連書籍)
シンセミア 4『ニッポニアニッポン』
著:阿部和重 (新潮文庫)

シンセミア 1『シンセミア 1』
著:阿部和重 (朝日文庫)

シンセミア 2『シンセミア 2』
著:阿部和重 (朝日文庫)

シンセミア 3『シンセミア 3』
著:阿部和重 (朝日文庫)

シンセミア 4『シンセミア 4』
著:阿部和重 (朝日文庫)
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コメント

コメント返事ありがとうございます☆
重松清さんの作品は子どもを持っているおじさん(私は該当しませんが)にジャストフィット(?)ですね。
女性の視点からみたらどうなのか、気になるところです。
気長にお待ちします♪

2007 07/06 ぱんだ 編集


>ぱんださん
おひさしぶりです♪
こちらこそコメントありがとうございます!

そう芥川賞受賞作品です!
このような本はかなり意見がわかれるんですよね。でも個人的には嫌いではありません。

重松清さんの作品はいろいろな場所で見かけるし、たぶん好きな作風だと思うので読みたいと思っているのですが、なかなか読む機会がありません。
まだ積読本もたまっているので、しばらくは読みそうにはないけれど、そのうち手を出そうと思っているので気長に待っててくださいね。

2007 07/02 大葉 もみじ 編集


おひさしぶりです!
コメント、すごく嬉しかったです☆
グランドフィナーレ、芥川賞ですよね。
当時、立ち読みで(すみません)少し読んだ記憶があります。
もみじさんは、重松清とかは読まないですか?
「流星ワゴン」とか「卒業」とか、すごく感動しました!
よかったら、もみじさんの書評を読みたいです♪

2007 07/01 ぱんだ 編集


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